筆者:パセリ端之助![]()
パセリはそのまま、三匹のいる場所を眺めていた。
アグーチさんは岩のそばに置かれた餌を食べている。
ケープハイラックスさんは組まれた岩の上に座り、ビントロングさんは太い木の枝の上で体を休めている。
三匹とも、ここへ連れてこられたばかりとは思えないほど落ち着いている。
「……どうして」
警察への通報

パセリはポケットからスマホを取り出し、画面を開いたところで、手が止まった。
「……ここ、どこですかね」
パセリは来た道を少し戻ると、施設の入口に古びた看板を見つけた。
その下には、小さく住所が書かれている。
「……ありました」
そこに書かれた住所を確認して、警察へ電話をかけた。

三匹を見つけたことと、今いる場所を伝えた。
「分かりました。危険ですので、その場から離れてください」
「はい」
電話を切ると、パセリはスマホをポケットにしまった。
男との遭遇

その場を離れようとしたところで、施設の奥から足音が聞こえた。
パセリはゆっくりと振り返った。
「……誰だ、お前」
作業着姿の男が、こちらを見ていた。
今度は、完全に目が合っていた。
「……パセリです」
少し間があった。
「馬鹿にしてるのか?」
「……いえ」
男はパセリの方へ歩いてきた。

「ここで何してる」
パセリは何も答えられず、三匹のいる施設の奥へ視線を向けた。
「……見たのか」
「……はい」
男の視線は、パセリから離れなかった。
「……あの」
「どうして、あの子たちを連れてきたんですか?」
誘拐の理由

「……あいつらを、あそこに置いておきたくなかった」
「何度も見た。パンダやライオンの前にはあれだけ人がいるのに、あいつらのところには誰も来ない」
男は施設の奥へ目を向けた。
「お前も見てただろ」
パセリはすぐには答えられなかった。
あの場所に人がほとんど来ないことは、パセリも知っている。
「……でも」
その先の言葉が出てこなかった。
「あいつらだって、もっと見てもらっていいはずだろ。だから、あいつらの居場所を作ろうと思ったんだ」
男の声が、少しだけやわらいだ。
「大丈夫。ここなら、あいつらが主役になれる」

「……でも、あの子たちの居場所は、動物園じゃないんですか?」
男は少し黙った。
「戻したって同じだ。誰もあいつらなんか見ていない」
そこにいた一人

「見てましたよ」
男は少しだけ眉を寄せた。
「……誰が?」
「僕が」

男はパセリを見たまま、少しの間、身動き一つしなかった。
やがて、ゆっくりと三匹のいる方へ顔を向け、その姿をしばらく見つめていた。
「……そうか」
男の口元が、わずかにゆるんだ。
「よかったな。お前らにも、ちゃんとファンがいたんじゃないか」

そうつぶやくと、男は一度目元をぬぐい、改めてパセリの顔を見た。
「……お前、あのときもいたな」
「いました。ずっといました」
男は少しだけ笑った。
事件の終わり

しばらくして、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「……警察か」
男はパセリを見て、小さく息を吐いた。
最後に一度だけ三匹を振り返り、抵抗することなく警察に連れていかれた。
動物たちにけがはなく、無事に保護された。
いつもの場所で
数日後。
テレビには、事件について語る園長の姿が映っていた。

「あの子たちは、私が必ず連れ戻す。そう決めていました」
「犯人を追いかけるのは、怖くなかったと言えば嘘になります。でも、園長として逃げるわけにはいきませんから」
「……まあ、いいか」
パセリはテレビを消すと、動物園へ向かった。
パンダやライオンの前には相変わらず多くの人が集まっていたが、園の奥まで足を運ぶ人は、ほとんどいなかった。

パセリがいつものベンチに到着すると、三匹がそろってこちらへ近づいてきた。
パセリは少しだけ微笑んだ。
遠くから聞こえてきたパンダ舎の歓声につられ、顔を向ける。
そして、目の前の三匹へ視線を戻すと、いつもの日常がそこにはあった。

(文:そこにゅ編集部 パセリ端之介)
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※この記事はフィクションです

