筆者:パセリ端之助![]()
三匹のいなくなった展示スペースには、さっきまでいなかった人たちが集まっていた。
飼育員たちが慌ただしく行き来し、その中には警察官の姿もある。
パセリは少し離れたところから、その様子を見ていた。
「あの、すみません」
後ろを振り返った。
「あなたです」
「……僕ですか?」
「はい。警察の方が、少しお話を聞きたいそうです」
唯一の目撃者

飼育員に案内された先では、展示スペースの近くにいた警察官がパセリに声をかけた。
「三匹が連れていかれるところを見たんですね?」
「はい」
警察官は手元のメモに何かを書き込んだ。

「連れていった人は、どんな格好でした?」
「作業着を着ていました」
「一人でしたか?」
「はい。一人です」
続けて、三匹がどのように連れていかれたのかを尋ねられた。
パセリは、アグーチさんが最初だったこと、その次がケープハイラックスさんで、最後にビントロングさんがケースへ入れられたことを順番に話した。

「それから、ケースを台車に載せて、出口の方へ行きました」
「よくここに来るんですか?」
パセリは三匹のいなくなった展示スペースを見た。
「……好きなんです、あの子たち」
残り一つのケース

近くにいた飼育員がつぶやいた。
「でも、どうしてこの三匹を……」
警察官が飼育員を見る。
「何か心当たりがありますか?」
「いえ。特に珍しい動物というわけでもありませんし……」
少し考えてから、パセリが口を開いた。
「……あそこ、いつも人が少ないんです。ここまで来る人も、あまりいません」
警察官は再び尋ねた。
「ケースはいくつありました?」
パセリは作業員を思い出した。

「っ!……四つです」
少し間があった。
「……一つ、多いですね」
警察官の視線がパセリへ向き口を開いた。

「もう一匹、連れていくつもりだった……?」
見覚えのある横顔

事情聴取が終わっても、パセリはしばらくその場を離れられずにいた。
それでも、いつまでもここにいるわけにはいかない。
帰ろうと思ったところで、一つ余っていたケースのことが気になった。
「……オーストラリアガマグチヨタカさん、大丈夫ですかね」
鳥類エリアには数人の客がいたものの、足を止める人はほとんどいない。
展示スペースをのぞき込むと、木の枝にはいつもの姿があった。

「……いました」
「こんにちは、オーストラリアガマグチヨタカさん」
オーストラリアガマグチヨタカさんは動かない。
「……今日も凛々しいですね」
いつもと変わらない姿を見て、ようやく少しだけ気持ちが落ち着いた。
名残惜しそうに眺めてから、パセリは動物園を出た。
少し歩いたところで、前を行く作業着姿の男が目に入った。
男は数歩進んだところで立ち止まり、一度だけ動物園の方を振り返った。

その横顔を見た瞬間、パセリの足が止まった。
「……あの人」
尾行、なぜか成立

男はそのまま動物園に背を向け、何事もなかったように歩き始めた。
警察に知らせようと、パセリはスマホを取り出す。もう一度男の方へ目を向けると、三匹の姿はどこにもない。
……あの人で、合っているんだろうか。
その間にも、男との距離は少しずつ開いていく。
このままでは、また見失ってしまう。
パセリは、じわりと汗のにじむ手でスマホを握りしめた。

「……少しだけ」
スマホをしまい、小さな歩幅で男のあとを歩き始めた。
少しして、男は足を止め、後ろを振り返るような素振りを見せた。
パセリは慌てて立ち止まり、周囲を見回した。
身を隠せそうな場所は、どこにもない。
男がゆっくりと振り返った。
パセリは息を殺し、震えながらその場に固まっていた。

「……誰もいないな」
男は前を向き、再び歩き始めた。
「……今、こっち見てましたよね」

戸惑っている間にも、男の背中は遠ざかっていく。慌ててあとを追った。
その後も男はときどき歩みを緩めては周囲に目を配り、そのたびにパセリも身構えながら少し離れた後ろをついていった。
それでも男がパセリに気づく様子はなく、気づけば、すれ違う人の姿はほとんどなくなっていた。
柵の向こうにいたのは

それから少し歩くと、男は古びた柵に囲まれた施設の前で足を止めた。
柵の向こうには、小さな飼育小屋や使われなくなったスペースがいくつも残っている。
辺りを確認した男は、そのまま中へ入っていった。
パセリもあとを追おうとしたが、施設の入口を前にして足が止まった。男の姿が奥へ消えても、なかなか中へ入ることができない。

外から様子をうかがっていると、奥の方に一ヶ所だけ、きれいに整えられた場所が見えた。
柵に沿って、もう少し近くまで歩いてみた。
餌の入った器。その隣には、きれいな水。さらに奥には、岩や太い木の枝が組まれている。
中の様子を見ていると、岩の陰で何かが動いた。
そこから顔を出したのは、アグーチさんだった。
少し離れた岩場にはケープハイラックスさん。
奥に組まれた木の上には、ビントロングさんの姿も見える。

三匹とも、無事だった。
パセリはしばらく三匹を見つめてから、小さく呟いた。
「……よかった」
(文:そこにゅ編集部 パセリ端之介)
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※この記事はフィクションです

