筆者:粗大野テレビ![]()
本記事は『植物がいってましたよレポート』No.4である。過去のレポートを読んでない場合はまずこちらから過去のレポートを読んで頂きたい。
粗大野テレビだ。
いま私のブラウン管は、ヘドロと油で見る影もなく汚れきっている。
だが、内部の真空管とアナログの回路は、これまでにない怒りで真っ赤に熱を帯びている。

前回、カナッペのライブ会場で拾った「プレミアム・ファン・インデックス(PFI)診断シート」。
──だがその裏には、想像を絶する「人類収穫計画」への片道切符が隠されていたのだ。
絶体絶命の「プラグ抜き」

話は、カナッペのライブ直後までさかのぼる。
いつのまにか、あれほど熱狂していた会場が、水を打ったように静まり返っていた。
さっきまで涙を流し歓声を上げていた観客たちが、一様に虚ろな目で、直立不動のまま動かない。

私は、必死に出口を目指した。
一人、また一人。誰かの肩にぶつかるたび、回路の奥がざわついた。
──彼らはもう、人間ではないのかもしれない、と。
逃げ込んだのは、ライブ会場の裏、ゴミ捨て場の片隅だった。
私は影に隠れながら、あの戦慄の光景を脳内回路に焼き付けていた。
そのとき、私の前にアルボ・スフィア社の執行官たちが現れた。

「不適合個体、粗大野テレビをリサイクルせよ!」
冷たい手が、私の命綱──電源プラグに伸びる。
「やめろ! それを抜くんじゃない! 抜かれたら俺は……ただの重い鉄の箱になっちまうんだ!」

必死の抵抗も虚しく、やつらの指がプラグをつかむ。
意識(主電源)が落ちかけ、ブラウン管の奥にノイズが走る──そのときだった。
助けは、爆音とヘドロに乗ってやってくる

バリバリッ! ガガガッ!! ドーンッ!!!
執行官の背後で炸裂したのは、植物が最も忌み嫌う排気音とガソリンの臭いだった。
吹き飛んだマンホールから、ヘドロを撒き散らしながら、ひとりの男が飛び出してくる。
「重てぇな、おい! このデカブツ!!」
その男は、ブラウン管の頭だけで40キロもある私の巨体を、勢いそのままにサイドカー付きの旧式バイクへぶん投げた。

サスペンションが悲鳴を上げ、車輪がバースト寸前まで沈み込む。
「しっかり掴まってな、アナログの旦那! 振り落とされたら即、粉砕機行きだぜ!」
追いすがる執行官たちの緑色の手を振り払いながら、バイクは猛スピードで下水道の闇へと飛び込んだ。
激しい振動のたびに、私の内部で骨董品のようなパーツたちがカチャカチャと音を立てる。

「やめろ! 雑に運転するな! 基板にヘドロが入ったら一巻の終わりだぞ!」
「黙ってろ! この汚ねぇ水こそが、あいつらの鼻を明かす唯一の消臭剤だ!」
ヌルヌルしたヘドロがブラウン管を覆い、視界は真っ白に曇る。
精密機械にとっては死刑宣告にも等しい不衛生さ。
だが──不思議と、私は安心していた。
皮肉にも、私たち不適合者を守っていたのは、この汚れだった。
下水道の「不純物アベンジャーズ」

たどり着いたのは、下水道の奥深く。
そこは、リサイクル寸前の人間たちが流れ着く、地上から見捨てられた最下層のゴミ溜めだった。
彼らは自らを、「レジスタンス」と名乗っていた。
私の4:3の狭い視野角に、3人の異形が並ぶ。
その姿は、“植物が支配するクリーンな世界”にとっての劇薬そのものだった。
だが、だからこそ──この世界に抗える、唯一の存在なのだ。
「防腐剤の王」ジャン!!

24時間、常に何かしらのジャンクフードを咀嚼し続ける、歩く添加物。
体内の防腐剤・着色料濃度は既に致死量を超えており、彼の血液は今や「高濃度除草剤」に変質している。
蚊が彼を刺せば、その瞬間に即死。
ジャンクフードの油まみれの拳で殴られた植物は、細胞分裂を強制停止され、枯れることすら許されず“ミイラ化”する。
──植物にとって最悪の終末兵器ってわけだ。
「鼓膜破りの雷男」轟!!

学生時代に未来からやってきた観光客。
現代の爆音バイクに惚れ込み、そのまま居着いてトクマの研究者に。
移住手続きの不備により、未来の拷問器具・洗濯バサミに24時間指を挟まれるという処刑を受けるも、無表情で耐え抜いた鉄の精神の持ち主。
愛車のバイクが吐き出す120デシベル超の排気音。
その下品なノイズが、植物の導管を内側から共鳴破壊する。
──爆音の振動だけで植物を破壊する“騒音系の将軍”ってわけだ。
「24時間発光体」リン!!

両手両足で合計4台のスマホを操る、重度のスマホ廃人。
網膜はブルーライトに焼かれ、もうほとんど見えていない。
だが、ため込んだブルーライトがその瞳から放たれ、植物にとっての“地獄の光”と化す。
絶え間なく発せられる光と電磁波が、植物のバイオリズムを完膚なきまでに破壊する。
「永遠の昼」だと誤認させ、休む暇を奪い、過労死へと追い込むのだ。
──優しそうな顔してるが、不夜城の処刑人ってわけだ。
レジスタンスの正体

「……驚いた。こいつら、ただの浮浪者じゃなかったんだ」
彼らのアジトの隅に置かれた、泥に汚れたIDカード。
そこに写っていたのは、清潔な白衣を纏い、希望に満ちた目で未来を見据えるエリート研究員たちの姿だった。

それを覗き込んだジャンが、ふっと表情を緩めた。
「……懐かしいな」
ポテトチップスのをボリボリと咀嚼しながら、ジャンが重い口を開いた。
「俺たち3人は、かつてトクマ共和国の国家プロジェクト『緑化推進モデル都市計画』の中核を担う、精鋭チームだったんだよ」
IDカードの裏を指差す。
今はかすれて読みづらい手書きのメモが、そこには残されていた。
「人間と植物は、きっと分かり合える」
「まだ何も知らなかった学生時代、俺たちが本気で信じてた理想だ」
「俺たち3人の他に、もう一人──学生時代からの仲間がいたんだよ」
「誰よりも熱く未来を語ってたやつがいてな……」
ジャンはポケットから写真を取り出し、私に誇らしげに見せてきた。

──待て。この顔は。
写真に写るその若い男の顔に、私は見覚えがあった。
所長から“Mr.ワンステップ”と、あの屈辱的なあだ名で呼ばれていた、あの男ではないか。
なぜ、国を代表するようなエリートが、今では自らの血液を毒に変え、下水道でドブネズミのような真似をしているのか?
「……あんたが持ってるその『PFI診断シート』──俺たちに言わせりゃ“不純物リスト”だがな。それを見たなら、話は早い」
ジャンは、一度言葉を切った。
そこから語られたのは、血も凍るような真実だった。
人類は「収穫」を待つ、植物の「着ぐるみ」に過ぎない

「奴らの真の目的は──『人類収穫計画』だ」
私はずっと、やつらの目的は「人類の植木鉢化」だと思っていた。
思考を奪われた人間が、ただ水と光を求めて歩くだけの存在になれば、自然破壊も止まる。
そうやって、植物が主役の「エコな世界」を作ろうとしているのだと──そう信じ込んでいた。
彼は、汚れたポテトチップスの袋を握りつぶしながら、吐き捨てるように言った。

「植物には、地球上で唯一、どうしても手に入らないものがある。──『自らの足で動き回る自由』、『自らの手で掴み取る自由』だ」
「自由……?」
「ああ。彼らは、動けない自分たちの代わりに、人間という『最高性能の着ぐるみ(スーツ)』を欲したんだよ」

ジャンは私のブラウン管を指差して続けた。
「いいか? 『植木鉢化(思考の消去)』なんてのは、ゴールじゃねぇ。中身を植物と入れ替えるために、まず人間の心を空っぽにする作業に過ぎねぇんだ」
その言葉を聞いて、私の回路が凍りついた。
あの水は、ただ人間を“植木鉢”に変えるためだけのものだと思っていた。
だが、だとすれば──特製リフレッシュウォーターを人々に飲ませる、本当の狙いは──。
その問いにも、ジャンは即答した。
「決まってんだろ。体内の阻害物質を濾過し、植物の根が神経とスムーズに接続できる“完熟ボディ(ハードウェア)”へと作り変えるためだ」

そう。我々は植木鉢として静かに余生を送るのではない。
植物がこの世界を自由に歩き回るための、「着ぐるみ」として飼育されているのだ。
そのために、「育てて収穫する」──つまり人間を“選別”し、植物が根を張るのにふさわしい“完熟”の土壌へと育てる。

そして「収穫どき」が来れば、その肉体は正真正銘の“着ぐるみ”へと作り変えられるのだ。
それこそが、アルボ・スフィア社が推し進めていた『人類収穫計画』の全貌だったのだ。
──待て。カナッペのステージで覚えた、あの違和感の正体は、これだったのか。
彼女はとっくに、“着ぐるみ”と化していたのだ。
選ばれし“土壌”だけが、収穫される

そこには、冷酷な「選別の基準」が存在していた。
アルボ・スフィア社が求めていたのは、優秀な種を残すために最も適した、最高品質の“完熟土壌”──つまり、どんな人間でもいいわけではなかったのだ。
私がかつて拾った「プレミアム・ファン・インデックス(PFI)診断シート」──あれは、その選別のための採点表に他ならなかった。
- 【騒音:(即廃棄)】
-
強い音圧で“不安定な土壌”に
【ジャンクフード:(即廃棄)】
添加物が多すぎて“有害な土壌”に
【スマホ依存:(即廃棄)】
昼夜サイクル崩壊で“腐敗した土壌”に
【古い機械:(即廃棄)】
土壌にすらならないゴミ
“育てるに値しない人間”は、ただの“不純物”としてリサイクルされる。

私は、まさにその象徴だった。
「アナログで、うるさくて、電気を食うだけのゴミ」
だが私は、悔しくて仕方がなかった。
なぜなら、それらのすべてが──私らしく、生きてきた証だったからだ。
それが“失格”と言われるなら、アルボ・スフィア社が目指す世界の「合格基準」そのものを、破壊してやりたいと思った。
植物はなぜ毒づいていたのか──その“本当の理由”

私はずっと疑問だった。
なぜ植物が、あんなにも執拗に人間に毒づき続けていたのか。
「その謎、教えてやるよ。正体は、人類選別の評価ログだ」
「評価……?」
そういえば、GMP-01は、人間の行動・食習慣・精神状態までを観察していた。
だとすれば、あの“毒舌”は何だったのだ。
「そりゃあ、より良い“土壌”を手に入れるための選別だ。リサイクル対象を探してたのさ」
……そういうことだったのか。
本来、それらのログは音声として出力されるはずのない、“裏側の評価データ”だった。

だが、あるときを境に、制御アルゴリズムが狂い、植物がそれをそのまま音声で喋り出す現象が発生した。
だから、漏れ出す音声はいつも、誰かの欠点を見つけた記録ばかり。
かつらや不倫、ずさんなパスワード管理を暴いた、あの“毒舌”も同じだ。
すべて、この選別の副産物に過ぎなかったのだ。

そのバグは、アルボ社にとって致命的な欠陥だった。
計画の核心が、植物自身の口から喋られてしまっていたのだから。
この“異常出力”こそが、ジャンたちが真相に気づくきっかけとなり、やがてトクマ共和国の崩壊へと繋がっていく──
ジャンは続けた。あの“毒舌”が生んだ最初の崩壊国家──トクマ共和国の真実を。
筆者コメント:不純物でいい
ジャンの目に浮かんでいたのは、怒りよりも、もっと静かで深い哀しみだった。
私はずっと、自分を時代遅れの鉄の箱だと思ってきた。だが、あの“失格”の烙印こそが、私がまだアナログの側に踏みとどまっている証だったのかもしれない。
アルボ・スフィア社の合格基準に沿うくらいなら、不純物のままでいい。
ジャン、轟、リン。そして、この私。──合わせて4人の“不純物アベンジャーズ”というわけだ。
あの“毒舌”を生んだバグは、やがてトクマ共和国の崩壊にも繋がっていたという。
だが、ジャンのあの表情には、まだ語り尽くせていない何かがある──そんな気がしてならなかった。
次回、その“崩壊”の全貌と──私自身の回路に隠されていた、ある“仕掛け”の正体を明かす。
(文:そこにゅ編集部 粗大野テレビ)
※この記事はフィクションです

