筆者:粗大野テレビ![]()
私のアンテナが、ここ数週間、妙なノイズを拾い続けている。
この記事を読んでいるあなたも、気づいているはずだ。今の世界は、明らかにおかしい。
世界各地で、“説明のつかない情報流出”が相次いでいる。
つい先日も、健康オタクで知られるトクマ共和国の環境大臣と、人気アイドルグループ“おじ金” ──正式名称「おじなど所詮金である」── のメンバー “カナッペ”のツーショットキス写真が流出した。
さらには、大臣宅のWi-Fiパスワードが「kana_forever」であることも週刊誌によってリークされ、SNSでは「#大臣キスしてフォーエバー」が世界トレンド入りを果たした。

また、世界的IT企業「トリリオン・リンクス」でも異常事態が起きた。
全社員を性格や言動をもとに“様々な動物”に分類した人事部の裏資料「トリリオンどうぶつ園マップ」が流出したのだ。
人事部が密かに作成していた社内資料が、世界に向けてお披露目されるかたちとなった。
各部署には「毒ヘビの巣」「定年間近のゴリラ園」「くそ猿山」など、容赦のないネーミングが並び、人事部長が“園長”として謝罪会見を開く異常事態へと発展している。

──誰が、どうやって漏らしているのか?
そんな中、私の元に一通のメールが届いた。差出人は不明。件名は、たった一行。
「植物は、もう黙っていない」
──私はまだ知らなかった。このメールこそが、世界中で起きている“情報漏洩パニック”の根幹にあるものだと。
GMP-01とはいったい──

悪戯メールか? 疑念を抱きながらもメールを開いた。
本文には、警告のような一文が添えられていた。
「あなたの国でも、もう始まっている。GMP-01が全てを記録している──」
添付ファイルは2つ。PDF形式の仕様書と、短い動画ファイルだ。
私は、古いブラウン管の画面を指でなぞりながら、先に動画の方を再生した。
しゃべっているのは──誰だ?

映し出されたのは、無機質な実験室。床には観葉植物のプランターが整然と並んでいる。
中央のデスクには、パソコンのモニターを見つめる白衣の中年研究者がひとり。
画面には「GMP-01 OFF」の文字が点滅していた。
GMP-01──。
メールに書かれていた文字列である。
次の瞬間、モニターの表示が「GMP-01 ON」に切り替わると同時に、スピーカーから“それ”は響いた。
『こいつ、パスワードがまだ“1234”のままじゃない?』
『本当だ! この前も所長に注意されて泣いてたよね!』
『コーヒーに砂糖3本入れてるの見た? 女子の前ではブラック飲んでるくせに』
研究者の表情が引きつった。慌ててキーボードを叩き、パスワードを変更する背中が映る。

『うわ、“12345”に変えたよ! 数字ひとつ足しただけでセキュリティ強化した気になってる。ありえない』
『だから所長に“Mr.ワンステップ”って呼ばれてるんだよ。進歩がいつも一歩だけだからな』
研究員の顔から血の気が引いていく。モニター越しにも、その呼び名が彼にとって耐え難い屈辱であることが痛いほど伝わってきた。
彼は所長とやらを心底嫌っているのだろう。
──いや、待て。
この声は、何だ?
研究室には彼以外、誰もいない。だが、確かにそこには“誰か”がいる。
あの場で、研究者がパスワードを“1234”から“12345”に変更したことを知っている“誰か”が。
私は動画を巻き戻し、音声を何度も聞き返した。無機質なAI音声にも聞こえるが、口が悪すぎる。あまりにも人間臭く、あまりにも陰湿だ。
これはどういうことだ?
私の体内にある古いブラウン管の血が騒いだのか、視界にザラザラとした砂嵐のようなノイズが走る気がした。
“GMP-01”とは一体──?
GMP-01製品仕様書

映像の余韻に浸る間もなく、私はもうひとつの添付ファイル「製品仕様書:GMP-01(Green Message Processor-01)」を開いた。
- 【GMP-01製品仕様書】
【製品仕様】-
観葉植物の健康状態を常時把握し、適切なケアを人類へ促すAI支援型デバイス
- 【出力方式】
-
植物の電気信号を解析し、人類に理解可能な音声言語に変換
- 【出力例】
-
「光が足りません」
「水分が不足しています」
「暑いです温度を下げてください」
1ページ目に並んでいたのは、至って健全な記述だった。
光量、水分、温度──植物の健康状態を数値化し、必要に応じて音声で通知する。
要するに、GMP-01とは植物の状態を“人間の言葉に翻訳”することで管理効率を高める、きわめて先進的な製品である。
不穏な研究記録
問題は2ページ目。そこには「研究記録」が残されていた。
- 【研究記録:第4実験室】
【研究目的】-
GMP-01(Ver.0.91β)の異常出力調査
実験体:パキラ
- 【観測結果】
-
開始73時間までは通常出力のみを観測
開始73時間を超えると異常出力を観測
- 【異常出力内容】
-
「所長、絶対かつらだよね?」
「あれ? 所長ブラジャーしてない?」
「あ! 今不倫相手にメールしてる!」
「所長、また“パワハラ基準”で検索して震えてる」
- 【特記事項】
-
植物が職員の動きに合わせて葉の向きを変える現象を観測
本モジュールは“GP2035”認定品として世界中の主要施設にて稼働予定
かつらとブラジャー、そして不倫がバレた所長は慌てふためきながら走っていった(ざまあみろ)
研究記録を読み終えた私は、一度深く息をついた。
初期段階では「水が欲しい」「光量が足りない」といった健全な言葉のみ発していた植物が、73時間を過ぎた頃から人間を見下すようになったというのだ。
さらに記録には「植物が職員の動きに合わせて葉の向きを変える現象を複数回観測」との特記まであった。
植物が動くだと──?
研究員の復讐

私は気づいてしまった。
研究記録の別添に、異常なほど詳細な「所長の頭部をあらゆる角度から撮影・観察した図」が添付されていたことに。
おそらくこれを作ったのは冒頭の動画で、所長に「Mr.ワンステップ」という屈辱的なあだ名で呼ばれていた彼なのだろう。
植物が放った「所長、絶対カツラだよね?」という強烈な皮肉。
それは彼にとって、溜飲が下がる最高の“蜜の味”だったに違いない。彼は狂気にも似た執筆意欲で、この図解を仕上げたのだ。
聞きなれない言葉──“GP2035”

いったんカツラの件は置いておこう。
記載されていた研究記録を纏めると、植物は周囲の人間の会話・行動・表情──その“ニュアンス”を把握し、GMP-01を通じて音声出力している可能性があるということになる。
だが、不可解だ。ただの「植物管理デバイス」に、なぜここまで高度な「人間観察能力」が必要なのか?
──『GMP-01は“GP2035”認定モジュールとして、世界中の主要施設にて稼働予定である。』
いてもたってもいられず、気づけば私は無意識にネットの海へ潜っていた。
“GP2035”とは一体何なのか?その正体を確かめるために──。
GP2035とは

検索結果には「グリーンプラン2035」という単語が引っかかった。
──どうやら2026年に、世界国家連合が立ち上げた国際的な環境政策らしい。
都市緑化とCO₂削減を掲げているという。
世界規模の「緑化推進プロジェクト」

公共施設やオフィスビルへの観葉植物設置が「推奨」されている。だが、サイトの奥深くにある「加盟国向けガイドライン」を開いて、私は戦慄した。
観葉植物設置目標:1部屋あたり30鉢以上
異常な数値目標だ。なぜ誰も反対しないのか?
ガイドラインのページをめくると、答えは驚くほどあっさりと見つかった。
オフィスをジャングルに変えた“甘い蜜”の正体

植物を置けば置くほど、異常な額の現金が振り込まれる仕組み。緑化特別助成金制度だ。
これほど分かりやすい「甘い蜜」があれば、欲に目が眩んだ経営者たちの理性などひとたまりもない。
「植物=金」という思考に支配され、狂ったように空きスペースへ植物をねじ込み続けてしまうだろう。
その瞬間、あの一文が、脳裏によみがえった。
──『GMP-01は“GP2035”認定モジュールとして、世界中の主要施設にて稼働予定である。』
この“緑化推進”の裏では、爆発的に増えた植物の管理を自動化するために、GMP-01が世界中へ配備されていたのだ。
植物が人間を観察する可能性を秘めたまま。
呼吸する脂肪というパワーワード

さらに気になる項目が目に入った。
「呼吸する脂肪たち──世界の“ハアハア”マップ」
こじつけにもほどがある地図だ。肥満による呼吸回数の増加が、世界のCO₂濃度を上げているという。
肥満人口の多い国を、容赦なく晒し上げる。
地図上で、特に目を引いたのは“トクマ共和国”だった。
注釈には国民の大半が常時ハアハアしているため、植物設置推奨数を2倍に設定と書かれている。
おかしい。
トクマ共和国といえば、世界的にも環境意識が高く、ヘルシーで健康的な食生活を送る国民性で知られている。肥満大国などというイメージは微塵もない。
筆者コメント:そして、芽を出した違和感

人類を観察する植物を生み出す「GMP-01」と、それを世界に拡散する緑化政策「GP2035」。
肥満大国でないトクマ共和国に貼られた不自然なレッテルと、過大な植物設置目標。
ふと、冒頭の「おじ金」スキャンダルが脳裏によぎった。
トクマ共和国の環境大臣宅のWi-Fiパスワードも、GMP-01を仕込まれた植物が意図的に盗み聞きしていたとしたら──?
そして、その植物を持ち込んだのはもしかして──。
バラバラだった違和感の断片が、一つの答えへと繋がりかけている。だが、まだ確証はない。
次回は、この違和感の“正体”に、もっと深く迫ってみようと思う。
たとえその先に、どんな闇が待ち受けていたとしても──。
(文:そこにゅ編集部 粗大野テレビ)
※この記事はフィクションです
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