ようこそ、本物のニュースのない世界へ。

コタツによる人類の分断が始まった──ぬくもりに沈む世界|ネム研レポートNo.2

こたつによる人類種別が始まった──ぬくもりに沈む世界(ネム研レポートNo.2)のアイキャッチ画像

筆者:宇宙田ごりら宇宙服を着ている宇宙田ごりら記者のイラスト

本記事は『ネム研取材レポート』No.2である。過去のレポートを読んでない場合はまずこちらから過去のレポートを読んで頂きたい。

コタツでネムミ研究所(通称:ネム研)が、「コタツによる人間の液状化に成功した」と発表してから、1週間が経った。

液状化する原因は、コタツが放っている謎のぬくもり。

ネム研はこれを“ぬくもり波”と呼び、さらにその社会的影響を踏まえて、“ぬくもり型社会破壊ウイルス”と命名した。

コタツから放たれるぬくもり波

そして最後に、静かにこう付け加えたのだ。

――「コタツは意志を持っており、人類を自己消滅へと導こうとしている可能性がある」と。

液状化の進行度は、コタツに触れ続けた時間の長さと、個人が生まれ持つウイルスへの耐性値によって大きく異なるという。

数時間程度の“軽度感染”であれば、まだ人としての姿と社会性を保っていられる。だが被験者のように、何十時間、何日にもわたって居座り続ければ、やがて完全な液状化に至る。

しかし、報道は沈黙を守り、人々も「なかったこと」にしようとしている。世界中を見渡しても、この事を記事にしているのはおそらく私だけだ。

だが、確実に世界は変わっていた――

今、世界の概念そのものが、コタツに吸い込まれはじめている。ぬくもり波が、世界をゆっくりと、しかし確実に溶かしているのだ。

ネム研の発表から1週間、この目で見た社会の変化を、余すことなく報告する。

目次

世の中の変化

【移動の変化】移動行動消滅症候群(IKD症)の発生

人が誰もいなくなった新宿駅のホームの様子

全国各地で、朝の通勤・通学者が気づいたら再びコタツにいるという現象が確認されている。

玄関で靴を履いた直後、意識が低下。

次に意識が戻ったときには、またコタツの中で座っているのだ。

ネム研はこの現象を「移動行動消滅症(IKD症)」と命名。そのメカニズムについて以下のように発表している。

――『IKD症とは、人間の移動に関する神経信号をウイルスが強制上書きする現象である。被験者が玄関で靴を履いた瞬間に発動し、意識を奪ったまま静かにコタツへとUターンさせる』

ある家庭からは、”出社した”つもりのお父さんが、実は1時間もコタツの中で”駅のホームごっこ”を続けており、それを目撃した家族が戦慄したという報告も寄せられている。

報告書によれば、出社や通学を予定していた人々の反応は、大きく3つに分かれていた――

反応の内訳
  • 約76%:靴を履いた記憶がない
  • 約15%:靴を履いたが、気づけばコタツの中に
  • 約9%:影響無し「ぬくもり耐性型人類」

ぬくもり耐性型人類は“ぬくもり型社会破壊ウイルス”に対する高い抵抗値を持つとされている。

彼らはこれまで通りに出社し、登校しているが、その“正常”がすでに社会全体の中では異常になりつつある。

人数が少なくなった教室の様子

たとえば学校では、チャイムだけが定刻通りに鳴り続け、教室に生徒の姿はほとんどいない。

黒板には震えるような筆跡でこう書かれている。

「あのとき、コタツを止めるべきだった」

はたして、これを書いた人間はまだ人間の形を保っているのだろうか。

【家庭の変化】“コタツをめぐる家族内抗争”

コタツを奪い合う家族の様子

通勤者、通学者が自宅に戻ってきた今、全国の家庭で“静かなるコタツの席取り合戦”が勃発している。

ぬくもり型社会破壊ウイルスの恐ろしい点は、感染者の脳内に「コタツの中心こそが宇宙で最も幸せな場所である」という強烈な刷り込みを行うことだ。

そう――人間を液状化するために。

父の「ここ、俺の席だよな?」という問いに対し、祖父は無言でみかんの皮を一直線に並べて“結界”を展開する。

そう、元来コタツの支配権を握っていたのは――

在宅生活のベテラン勢、すなわち子ども、祖父母、そして動かぬ猫たちである。

そこに、スーツ・制服姿の“移動失敗組”たちが合流したことで、全国各地で家庭内の争いが激化しているのだ。

ネム研の研究者はこの現象を「家族内コタツ内戦(KIC戦)」と命名し、こう発表した。

「コタツの中心にいる者が、家庭のすべてを支配する」

コタツの席が家庭内ヒエラルキーに直結する現在、コタツはもはや「家族団らんの象徴」ではなくなったのだ。

【地位の変化】孤独なる勝者「コタツセレブ」

嫌な感じのコタツセレブの姿

家庭内の混沌をよそに、静かに笑う者たちがいる――

それが、一人暮らしでコタツを独占できる層=“コタツセレブ”だ。

彼らは部屋の中心にコタツを配置し、四方向すべてに足を伸ばせる特権を持つ。

SNSには #ひとりコタツ #ぬくもり無双 #おしり左右フリー などの煽りタグが急増。嫉妬に狂ったコタツ弱者がコタツセレブの住所を晒すなど“ぬくもりヘイトクライム”に走りつつある。

「コタツ弱者も、一人暮らしすればいいのでは?」――普通ならそう考えるかもしれない。

だが、現実はそう甘くない。すでに人々は、コタツから出られない身体になっているのだ。引っ越しどころか、廊下に出ることすら困難な者もいる。

今あるコタツの、“中心”をいかに確保するか。それこそが、この社会を生き延びる唯一の戦略なのである。

誰もがこう囁き合っている。

「コタツの中心から遠ざかる者に、もはや人権はない」と――。

【通貨の変化】体温で発行される新通貨「ヌック」(Nuk)

新通貨「ヌック」の図

“コタツから動かないこと”が美徳とされる新時代、人々はもはや「働く」ことではなく、コタツの中で体温とぬくもりをいかに維持するかで経済活動を行うようになった。

世界中の市場が崩壊し、既存通貨が信用を失った今、新たに流通しはじめたのが、「ヌック(Nuk)」である。

これは体温によって発行されるぬくもり通貨であり、1ヌックはおよそ1.0kcal分の熱エネルギーに相当する。

重要なのは、“動かず、温かく、じっとしている”こと。コタツの中で何もせず、ぬくもっているだけで自然と資産が増えていく。

いまやヌック(Nuk)は、最も信頼される価値単位となった。

こたつでぬくもるだけでNUKが増えていく様子

そしてコタツの中心に近ければ近いほど、ヌック(Nuk)は濃く貯まる

この単純な物理法則が、家族内におけるコタツ内戦をさらに苛烈なものへと変えている。

いまや、この世界はヌック(Nuk)によって回っているのだ

「どれだけ何もしなかったか」が社会的ステータスになる逆文明社会が、いよいよ現実味を帯びてきた。

一方、かつて経済の中心とされた「働く・移動する・汗をかく」といった行動は、「ムダな熱放出」として敬遠されはじめている。

一部のニュースサイトでは「運動」という単語にモザイクがかかるという現象も確認されている。

【人類の変化】ぬくもり耐性値による人類の分断

非耐性型人類と耐性型人類で2分された世界

ぬくもり型社会破壊ウイルスへの耐性には個人差がある。この事実が発覚して以降、人類は静かに「二種類」に分断された。

①非耐性型人類

ぬくもり型社会破壊ウイルスに反応する。

彼らはコタツに入るだけで体温が上昇し、自然とヌック(Nuk)通貨を発行できる。

②耐性型人類

ぬくもり型社会破壊ウイルスに反応しない。

コタツの中でぬくもってもヌック(Nuk)が発生しない。

耐性型人類は、ぬくもってもぬくもっても何も出ない。ただ税金だけが引かれるのである。

ヌック(Nuk)偏重社会において、これは致命的である。

既存通貨が廃止された今、耐性型人類が生き延びる唯一の方法はぬくもりに溺れる非耐性型人類の衣食住を支えること、ただそれだけである。

物流、医療、宅配、排泄介助などの非ぬくもり労働は細分化され彼らの生活を支えている。

「仕事って、“誰かがぬくもってる間にやるもの”だったんですね……」

そう語るのは、週7で配達をこなす耐性型の青年。彼は今日も、住人の口元にゼリー状うどんを流し込み、ぬくもり通貨「ヌック(Nuk)」で対価を受け取っている。

筆者コメント:宇宙田ごりら、沈黙の町で取材を開始

こたつのぬくもりで地球が溶け始めている様子

人類にとってコタツとは、本来「人間をちょっとだけダメにする」そんな冬の風物詩にすぎなかったはずだ。

それが今や、人をダメにするどころか、社会の構造そのものを溶かしはじめている。

やはり、すべてのターニングポイントは「ネム研」のあの発表だったのだろう。

冥王星に“暖かさ”という概念はない。あるのは、絶対零度に近い静寂と、凍りついた孤独だけだ。だからこそ、私には分からない。人間はなぜ、みずから望んで得たぬくもりに、みずから溶かされていくのか。

かつて、人々に幸せをもたらしていたはずのコタツが、なぜ“あのタイミング”から世界に牙をむき出したのか。

――それが、私にはどうしても気になるのだ。

これは、ぬくもりによる優しい終末なのか。それとも、ただのバカバカしい地獄なのか。

正直、私にもわからない。

宇宙田ごりらが地図に光るホシモリ島をみつめている様子

私は「ぬくもり型社会破壊ウイルス」の世界浸食度マップを手に入れた。

その地図には、たったひとつだけ浸食されていない島――ホシモリ島の存在が記されていた。

次回のネム研究レポートではこの“未浸食の地”の真実をお伝えする予定である。

ごりらは行く――コタツの届かない、その場所へ。

(文:そこにゅー編集部 宇宙田ごりら)

\続きはこちら!/

※この記事はフィクションです

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

冥王星で拾われ、地球で記者になったゴリラ。 存在しないニュースをこよなく愛し、今日も望遠鏡で世界中の妄想を観測中。

「現実が退屈なら、想像を広げればいいじゃない」 「宇宙にニュースはない。地球には妄想がある」 というのが持論である。

最近の悩み: スマホのフリック入力が指の太さに対応していない。

目次